将来世代への負担をどう考えるのか
導入
「将来世代への負担」と聞くと、まず国の借金の残高を思い浮かべます。
ニュースでも、国債残高や国の借金が大きく取り上げられることがあります。
ただ、ここまで国債、国債費、財政赤字、プライマリーバランス、年金、社会保障を見てくると、将来世代への負担は借金残高だけでは整理しきれないと感じました。
借金の残高があること。
利払費が増えること。
社会保障の給付をどう支えるか。
税と社会保険料を誰が負担するか。
国と地方で生活に近いサービスをどう担うか。
これらが重なって、今のサービス、今の負担、将来の負担がつながっています。
この記事では、不安をあおるのではなく、どの数字を分けて見ればよいのかを整理します。
最初に気になったこと
最初に気になったのは、「将来世代への負担」という言葉が、かなり広い意味で使われることです。
国債残高が増えることを指す場合もあります。
国債費のうち利払費が増えることを指す場合もあります。
社会保障の給付を支えるために、将来の税や社会保険料が重くなることを指す場合もあります。
さらに、今の世代が公共サービスを受けるために、将来の世代が返済や負担を引き受ける、という意味で使われることもあります。
でも、これらは同じ数字ではありません。
普通国債残高、国債及び借入金現在高、国債費、利払費、財政収支赤字、プライマリーバランス、社会保障給付、年金財政は、それぞれ対象範囲が違います。
まずは、言葉を分けて見ます。
まず確認する資料
今回確認したのは、財務省の「令和8年度予算フレーム」「令和8年度一般会計歳入歳出概算」、財務省の「国債及び借入金並びに政府保証債務現在高(令和8年3月末現在)」、厚生労働省の「令和6(2024)年財政検証結果」です。
令和8年度予算フレームでは、令和8年度予算、国の一般会計、当初予算ベースの歳出、歳入、国債費、利払費、普通国債残高、普通国債残高対GDP比、プライマリーバランスを確認できます。
令和8年度一般会計歳入歳出概算では、社会保障関係費、地方交付税交付金等、国債費などの主要経費を確認できます。
国債及び借入金現在高は、四半期ごとの統計です。普通国債残高だけではなく、内国債、借入金、政府短期証券などを含む数字を確認できます。
令和6年財政検証では、公的年金の保険料、国庫負担、給付、積立金、所得代替率などを確認できます。
ここでは、国の一般会計の予算数字と、四半期統計の残高数字と、年金財政の制度資料を混ぜないように扱います。
数字で見るポイント
財務省「令和8年度予算フレーム」によると、令和8年度予算の国の一般会計、当初予算ベースで、歳出総額は122兆3,092億円です。
同じ資料では、国債費は31兆2,758億円、そのうち利払費は13兆371億円です。
元資料では、単位はいずれも億円です。
国債費は、過去に発行した国債の償還や利払いなどに使うお金です。
このうち利払費は、国債を持っている人に利息として支払う部分です。
将来負担を考えるとき、残高だけでなく、この利払費が予算の中でどれくらい大きくなるかも見ます。
同じ令和8年度予算フレームでは、令和8年度末見込み、令和8年度予算ベースの普通国債残高は1,145.4兆円、普通国債残高対GDP比は165.5%です。
これは普通国債の残高であって、財務省の四半期統計でいう「国債及び借入金現在高」と同じ範囲ではありません。
財務省「国債及び借入金並びに政府保証債務現在高(令和8年3月末現在)」では、令和8年3月末現在の国債及び借入金現在高は1,343兆8,426億円です。
同じ統計の中で、普通国債は1,104兆2,984億円です。
こちらは令和8年3月末の統計で、元資料では単位は億円です。国の一般会計の年度末見込みとは資料の性格が違います。
財務省「令和8年度一般会計歳入歳出概算」によると、令和8年度予算の国の一般会計、当初予算ベースで、社会保障関係費は39兆559億円、地方交付税交付金等は20兆8,778億円です。
将来世代への負担は、借金残高だけでなく、こうした毎年度の支出と財源の組み合わせとしても見えます。
仕組みを整理する
将来世代への負担を考えるとき、少なくとも次の点を分けて見る必要があります。
1つ目は、国債残高です。
国債残高は、過去に発行してまだ償還されていない国債の残りです。
ただし、普通国債残高と、国債及び借入金現在高は同じ範囲ではありません。
普通国債残高は、国の一般会計の財源として発行される普通国債を中心に見る数字です。
国債及び借入金現在高は、内国債、借入金、政府短期証券などを含む四半期統計です。
2つ目は、国債費、特に利払費です。
国債費には、元本の償還に関わる部分と、利払いに関わる部分があります。
残高が大きくても、利率が低ければ利払費は抑えられます。
逆に、金利が上がれば、借り換えの時期などを通じて、利払費が予算を圧迫しやすくなります。
将来負担を見るときは、残高と利払費を分けて確認します。
3つ目は、社会保障給付です。
社会保障は、年金、医療、介護、福祉、子ども・子育てなどに分かれます。
国の一般会計では社会保障関係費として見えますが、実際には特別会計、社会保険料、地方自治体の支出、自己負担なども関係します。
国の一般会計だけを見ると、社会保障全体の財源構造は見えにくいです。
4つ目は、年金財政です。
令和6年財政検証では、厚生年金の保険料水準は18.3%、国民年金は17,000円、平成16年度価格とされ、基礎年金の国庫負担2分の1、積立金の活用、マクロ経済スライドが長期的な財政の枠組みとして示されています。
これは令和6年財政検証という制度資料に基づく数字で、一般会計の予算数字とは違います。
年金は、単に国債で支えている制度ではありません。
保険料、国庫負担、積立金、給付水準の調整が組み合わさっています。
5つ目は、税と社会保険料です。
税は、所得税、消費税、法人税などを通じて、広い行政サービスの財源になります。
社会保険料は、年金、医療、介護、雇用保険など、制度ごとの給付と結びつきやすい負担です。
将来世代への負担を考えるとき、税で負担するのか、社会保険料で負担するのか、給付を見直すのかで、影響を受ける人が変わります。
6つ目は、国と地方の役割です。
子ども・子育て、介護、障害福祉、教育、公共事業などは、国の制度や財源だけでなく、地方自治体のサービスとして実施される部分があります。
国の一般会計に地方交付税交付金等が載っていても、それだけで地方財政の全体は見えません。
将来世代への負担は、国だけでなく、地方のサービス、地方税、地方債とも関係します。
比較
国債残高だけを見ると、将来世代に大きな負担が残るように見えます。
一方で、社会保障や教育、公共事業、防災など、今の支出の中には、今の世代だけでなく将来世代にも関係するものがあります。
たとえば、教育やインフラ整備は、将来の人にも使われる可能性があります。
一方、毎年の給付やサービスを借金で支え続ければ、将来の税や社会保険料、利払費に影響が出ます。
ここを一つの言葉でまとめると、見え方が粗くなります。
今の世代が受けるサービス。
今の世代が払う税や社会保険料。
将来の世代が受けるサービス。
将来の世代が負担する税、社会保険料、利払費。
これらを並べて見たほうが、負担の移動が見えやすくなります。
他の記事とのつながり
JM-029の国の借金では、国債残高や国債及び借入金現在高の範囲を分けて見ました。
JM-030の財政赤字では、歳出と歳入の差、公債金、財政収支赤字を整理しました。
JM-031のプライマリーバランスでは、国債費を除いた基礎的な収支と、財政赤字全体を分けました。
JM-036の年金保険料の記事では、保険料を下げる場合に、給付、国庫負担、税財源、積立金、将来世代への影響のどこかに論点が移ることを確認しました。
今回のテーマは、それらを一つにまとめて、「何を将来へ送っているのか」を見る記事です。
調べて分かったこと
将来世代への負担は、国債残高だけでは決まりません。
もちろん、国債残高は大きな手がかりです。
財務省「令和8年度予算フレーム」では、令和8年度末見込み、令和8年度予算ベースの普通国債残高は1,145.4兆円とされています。
ただ、その数字だけでは、毎年度の利払費、税収、社会保障、年金財政、地方財政、経済成長との関係までは分かりません。
令和8年度予算の国の一般会計では、国債費31兆2,758億円のうち、利払費は13兆371億円です。
利払費は、将来の予算の自由度に関わります。
同じ予算の社会保障関係費は39兆559億円です。
社会保障は年金、医療、介護、福祉などに分かれ、税だけでなく社会保険料や地方の支出とも関係します。
年金財政では、保険料、国庫負担、積立金、給付水準の調整が組み合わさっています。
つまり、「将来世代に全部押しつけている」と一文で断定するより、今の制度がどの財源で支えられ、どの部分が将来の税、社会保険料、利払費、給付水準に影響するのかを分けて見たほうがよさそうです。
筆者の感想
調べる前は、将来世代への負担という言葉を、ほとんど国の借金の話として受け止めていました。
でも、シリーズを通して見ると、負担は一つの数字ではなく、複数の場所に現れることが分かりました。
国債残高として残る負担。
利払費として毎年度の予算に出てくる負担。
社会保障の給付と保険料の関係として出てくる負担。
地方自治体のサービスを支える負担。
税収や経済成長によって受け止め方が変わる負担。
どれか一つだけを見て安心することも、逆に不安になることも、少し早いのだと思います。
将来世代のことを考えるなら、今のサービスをどう見直すのか、今の負担をどう分けるのか、将来にどんな選択肢を残すのかを、資料の範囲を確認しながら見る必要があります。
次に読む記事
ここまでで、国債、財政赤字、プライマリーバランス、年金、税と社会保険料、国と地方のお金を一通り見てきました。
最後に、シリーズ全体で見えてきた日本のお金の地図を振り返ります。


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